
フランスの女流詩人にマルスリーヌ・デボルド・ヴァルモル(1785〜1859)という人がいました。彼女の詩はその美しいリズムと韻で、同時期のヴェルレーヌ(1844〜1898)などにかなり影響を与えたといわれています。その一つに、サアディの薔薇というのがあります。韻やリズムは原語でないとわかりませんが、詩の内容もすばらしい。要約すると次のようになります。
サアディの薔薇
私は今朝、あなたに薔薇をとどけようと思った。
でも、たくさん摘みすぎて私の帯袋に納めきれませんでした。
帯は解け、薔薇は風にのってみんな海にいってしまいました。
そのため、海は赤く染まり、まるで炎のよう。
今宵、私の着物はその薔薇の匂いで馥郁としています。
どうか、この匂いやかな思い出を私のうちに感じてください。
ここでいうサアディとはペルシャの詩人(1184〜?)で、その詩「薔薇の苑生」は次のようになっています。
薔薇の苑生
賢者ありて忘我法悦の境にひたりぬ。
我に返りし時、友これに向ふ
「汝の在りしかの苑生より、何をか我等にもちかえりしや。」
応えて曰く
「われ、かの薔薇の木に至らば衣をかかげて花を満し、以ってこれを友らに贈らばやと夢見たり。さはれ辿りつきし時、薔薇の香りの我を酔わしむること甚だしければ、衣の裾我が手より滑り落ちぬ。」
POEMES FRANCAIS de Villon a Apollinaireの注釈から斉藤磯雄氏訳
この文はGIHメーリングリストに「花の匂いに酔いしれて」と題して書いたものを加筆修正しました。美しい詩や音楽など、優れた芸術は時を越え、時代を超えて受け継がれるのですね。
花の匂いに酔いしれた痴れ者のたわごとです。